池袋モンパルナス回遊美術館2022のポスター用イラストを描かせていただきました。もろもろ説明しちゃう。

池袋モンパルナス回遊美術館という、毎年5月に開催される包括的なアートイベント的なもののポスター用のイラストを描かせていただきました。どんなイベントかというと、池袋界隈の大小のギャラリーや劇場やお店や学校や文化施設などで開催されている企画をまるっと「回遊美術館」というくくりでくくってゆるく連動させて、人々が街を回遊するきっかけになれば、というようなもの、だと僕は認識しています。例年は5月のみの開催なのですが、今年は秋に豊島区が区制施行90周年を迎えるのと連動して、秋も開催するのだそう。アートイベントであり地域イベントであり、というような感じ。

画像をクリックで拡大。もう一度クリックするとさらに寄るので、細かい部分まで見れます。

 

池袋モンパルナスとは、大正から昭和にかけて今の椎名町駅北側〜要町駅北側あたり(当時は住宅街ではなく畑が広がってた)に100棟以上のアトリエ付き住宅(15畳のアトリエと3畳の居室、北側に明かり取りの大きな窓など芸術家に特化した賃貸住宅)が建設されて、そこにたくさんの画家や彫刻家や詩人が住み、その仲間たちが出入りして、酒を飲んでは喧々諤々討論を交わし、その暮らしからも新たな文化が生まれたというところ。

当時の洋画はメディアの最先端(カラー写真が無い時代だから肖像画や広告や看板としてのニーズも高かったろう。戦時には戦意高揚にも利用されたり)だったと思う。ので、今で言えばYou Tuberのためのスタジオ付&高速回線つき安アパートを大量に作って、そこにいろんな特性を持った映像作家が集まって日々食うや食わずながら影響与えあい切磋琢磨していく、みたいな感じだろうか。

デザイナーさんたちとの打ち合わせでは、色数を抑えめにした線画のイラストが良いということでした。実は僕は、線画ではない絵の具で筆で描く絵をカラフルに描こうかと思っていた(なにしろ池袋モンパルナスの画家は絵の具のイメージだったし)ので、先方の希望が真逆で、ではそのなかでなにを作ろうかと思案。

正直、なにを描いたらいいものか当初困りました。普通、このようなアートイベントのポスターというと、絵画や写真やインスタレーションやパフォーマンスなどさまざまな展示や企画があるよということでいろんなタイプの作品の絵を描くのが良さそうなものですが、考えるうちに、なにしろその「池袋モンパルナス」という名前を冠したイベントのイラストなのですから、作品だけでなく、街で作家が作品を作っている様子も描いたらいいのではないかと思うに至る。

作品を作っている人
作品を見ている(回遊している)人
作品を見ていなくても街で暮らす人

が交差するような絵にしてみようと。僕は人間を描くことが中心の絵かきなんだし自分が選ばれた以上自分らしく人間を描こうという気持ちもあり。

 

以下は、イラストの説明になります。
自分で絵を見て気付きたい人にとっては、ネタバレ答え合わせになってしまうので、そういう人は先にトップに貼ったポスターをじっくり見てから読むのがいいかも。

池袋モンパルナスをとりあげた雑誌を取り寄せたり、ネットでいろいろ調べてみたりする中で、以前から大好きだったこの写真をモチーフに描くのはどうだろう、と思いついたのが3月半ば頃。地域や行政の人たちも関わるイベントなので、写真をモチーフにすることの許可もきっと得られるだろう。

その写真というのがこちら。池袋のアトリエ村の写真といえばこれ、という写真。アトリエの大きな出窓から着物に下駄の男性が大きな絵を持ち出すところを撮ったもので、両サイドに住居付きアトリエ群、路地の中央に生える謎の木と煙突が空にすっと伸びているのが印象的。左には七輪(?)を置いてたたずむおばあさん(?)、左奥には赤ん坊をおんぶする男性と、その向かいに女性。その奥に洗濯物。二人は夫婦だろうか。なんか、この一枚だけでいろいろな暮らしや会話がイメージできませんか。僕は生活感のない写真よりも、こういう音や匂いが漏れ伝わってきそうな写真のほうが好きで、この写真はほんとに大好きだったのです。

この写真を土台に、しかしノスタルジーではなく現代に(僕の線画イラストは切り絵タッチで懐古的になりがち)なるように注意しながら作ったラフがこちら

なにしろ写真は横長でポスターは縦長です。横幅を縮めつつ上に延長する方向に。謎の木と、煙突を上に上に延ばす。建物も二階や三階を追加。

以下、イラストを拡大して部分ごとにちょっとした説明を。

出窓から額装された回遊美術館のロゴを運び出す二人と、スマホで撮影する友達。地面に棒きれで電車の絵を描く子。信用金庫のショウウィンドウなどで子どもたちの絵の展示等、子どもの企画も毎年あるそうで、子どもが描いている様子をはじっこに入れました。このポスターイラストしかりデジタルでの作画が当たり前の時代ですが、原点は地面に棒きれで描くのですよ。そこから始まる。ちなみにアトリエ室内の額の中の絵は、僕が15年くらい前に盛んに製作販売していた手描きローケツ染めTシャツの絵柄です。この夏、シックな染めではなくカラフル派手なプリントで復活させようと思案中。

写真にあったあかちゃんをおんぶする男性は、現代風の抱っこひもに変更。奥に干してあった洗濯物はポスターに。学生さんに地域のお店のポスターを作ってもらう企画もあるのだそう。写真で木のそばにいた女性は、木のインスタレーションの装飾作業をしている女性に変えました。写真で両サイドに写っているアトリエ付き住宅は一軒を残して2階建てや3階建ての建物に。現在のアトリエ村も、近所に一軒だけ修復されて保存されています。外観はこれまで何度も見に行ったのですがまだ中には入ったことがない。一度入りたい!

写真の左手前に座っていたおばあさんは、ペンタブレットで絵を描く女性に変更。隣にはそれを覗き込む女の子を追加。「左手でツールを選んで、右手のペンで描くのよ」

回遊美術館の過去にはインスタレーション的な企画もあったようなので、煙突や木には飾りをつけて、さらに木に登るパフォーマーも追加。今回の企画群に身体パフォーマンスがあるかどうかはわかりませんが、イラストに非日常感を出したくて。屋上にパフォーマンスを見る家族、その下の階にはバイオリンを演奏する人と犬、右の建物には撮影する写真家と、その下の階はわかりにくいのですがヘッドホンをして動画を編集する人の後ろ姿。絵や彫刻以外の創作も入れたくて。遠くの背景には池袋のビル群。池袋モンパルナスがあった椎名町要町あたりから東側を向いている設定です。朝焼けの時間にしちゃ活動的な人が多すぎますが。朝活?オールナイト明け?

タイトルを運び出す建物の二階には画家さん。かく言う僕自身はコロナ禍の2年間、子ども向け工作やイラスト仕事などに追われて自分発の絵画作品をろくに描けてないので、そろそろ始動しなくては。

左側の建物の1階には彫刻家とモデルさん。北側に明り取り用の大きな窓があるのがアトリエ付き住宅の特徴。窓が南側だと直射日光が入って光が強すぎて、北側の直接じゃない光が制作には重要なんですって。

左のビルの2階にはデッサン会を。全体のバランス的に、窓にはせいぜい2〜3人が良いと思ってたのに、ついぐちゃぐちゃと描きすぎてしまって、ここだけやたら細かくなっちゃった。真面目に描くと固くなっちゃうので、モデルのポーズと表情でちょっと柔らかく。ここにも北側に大きな窓を。

屋上にはお酒を飲みながらしみじみ話す3人。雑誌記事を読んだりすると、池袋モンパルナスの大事な要素の一つに「表現や絵や詩や戦争について夜な夜な酒を飲んでは喧々諤々議論して」ということがあって、当初のラフでは区の関わるイベントだしお酒の要素は入れてなかったのですが、やっぱり入れなくちゃと思って描き入れました。僕の中では若き芸術家3人という設定。隣で飾りを見ているのは誰かの娘かな。

以上、長い説明終わりです。僕はいま、かつての大先輩たちが暮らした池袋モンパルナス跡のそばで暮らしているってのもあって、2022年の自分が描けることを精一杯やろうと思って頑張りました。久々に頭をどこかに飛ばして描けた。そうそう、以前はこうやって夢中で描いてた。3人の子の親になり、近年は工作の先生にもなって、なんかいつも自分を律して落ち着いて冷静でいなくては、みたいな気持ちになってしまっていたところがあるんだけど、得体のしれない疫病が世界的に流行って、戦争まで起きて、冷静になんかいられるもんか、大人だって動揺していいんだ、そうだそうそう、若い頃上がったり下がったりグラグラ不安定な気持ちだからこそ描けていた絵があったもの。そういうのを久しぶりに思い出させてもらえました。この調子で行きます2022。

 

4月1日より、池袋駅西口地下道のechica池袋というスペースで、池袋モンパルナス回遊美術館の説明とともに僕の絵が二点展示されています。5月31日まで。以下の動画は開始直後でまだポスターイラスト制作中なのでイラストが展示されてませんが、今はきっとイラストも一緒に展示されてるかと。

 
 
 
 
 
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回遊美術館はなんと今年で17回目だそう。僕が豊島区南長崎に引越してきてからもちょうど同じくらい経っていて、確か越してきて間もない頃に回遊美術館さんのくくりの中で高円寺ハートトゥアートの企画かなにかで、近所の信用金庫さんのショウウィンドウに作品を飾らせていただいたことがあったなあ。7年前には、回遊美術館の企画の一つとして突然近所に現れた現代美術家たちによる2週間だけのスペース「椎名町サロン」がとてもおもしろくて、当時地域に知り合いがほとんどいなかった僕はそこで出会った人たちのおかげで地域での活動が広がり始める。ちょうど地域でも活動をしてみたいと思い始めた頃で、意を決して参加したいと申し出て、椎名町サロンの顔ハメパネルを作るライブペイントをしたのでした。去年と今年はぞうしがやプレーパークの中で、子どもたちとダンボールや絵の具を使った制作をして、それを公園内の丘の上テラスに展示するという小さな企画で参加しています。

ぞうしがやプレーパークの回遊美術館企画は5/22(日)10:30〜15:00(14時からは室内に移り壁画制作?)、雑司が谷公園で、ダンボールに街の好きなものや好きな遊びの絵を描いて切ってもらい、それを公園内の丘の上テラス内の壁に貼って、一つの「街の壁画」のようなものを作ろうと思っています。いろんな人が描いた人間、動物、虫、車、電車、食べ物、飲み物、キャラクターやモンスターも登場するかな。そういうものをひっくるめてみんなが好きなものがあつまってる街が表現できれば。予約不要、参加無料。雨天時や強風時は翌月に繰り越し。これについては詳細を、説明イラストをつけて近日載せますね。

 

 

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